無権代理と表見代理

☆無権代理(むけんだいり)

無権代理とは、本人を代理する権限(代理権)がないにもかかわらず、ある者が勝手に本人の代理人として振る舞うことをいいます(広義の無権代理)。

代理人が行った代理行為に関して代理人が代理権をもっていなかった場合には無権代理行為となり、本人にその効果は帰属しません。

 

ただし、無権代理行為のうち、相手方が代理権の存在を信じたことに合理的根拠があり、本人にも帰責事由があるような類型では、代理制度の信頼維持のために、きちんと権限のある代理人が行った場合と同様の効果を認める表見代理の制度があります。

 

☆表見代理(ひょうけんだいり)

表見代理とは、「無権代理人にあたかも代理権があるかのように見える場合、信頼して取引関係に入った相手方を保護するため代理の効果を認める制度」のことを言います。

 

実際には代理関係がないにもかかわらず、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者(本人)は、その代理権の範囲内においてその他人が善意・無過失の相手方との間でなした行為について責任を負わなければなりません。

 

☆表見代理の成立要件

1.本人が第三者に対して他人に代理権を授与した旨(=顕名)を表示したこと

2.その他人が本人によって表示された代理権の範囲内において第三者との間で代理行為をなすこと

3.第三者がその者に代理権が存在しないことにつき善意・無過失であること

 

権限外の行為の表見代理(越権代理):代理人がその権限外の行為をした場合において、相手方が代理人の権限があると信じるべき正当な理由があるときには、本人は相手方に対して責任を負わなければならない(民法110条)。越権代理と呼ばれることもあります。

 

代理権消滅後の表見代理(滅権代理):人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実について善意・無過失の相手方に対して責任を負わなければならない(民法112条1項)。滅権代理と呼ばれることもあります。

 

☆表見代理の効果

表見代理が成立する場合には代理によって生じる法律上の効果が本人に帰属することになります。ただ、通説・判例は表見代理は広義の無権代理の一種であるので、表見代理とともに無権代理人の責任の要件が満たされる場合には、相手方は表見代理と無権代理人の責任を選択的に主張できるとしています。