遺留分に関する判例の趣旨

1.遺留分の減殺を受けるべき受贈者が現物を返還することができず、また、無資力のためその価額を償還することもできない場合、遺留分権利者は、さらに前の受贈者に対して減殺をすることはできません。なぜなら本来であれば減殺を受けることのない者が減殺を受けるべき者の無資力という偶然の事情のために減殺を受けることになると不測の損害を被るおそれがあり、公平を失することになるからです。

2.受贈者は、遺留分減殺を受けた遺贈の目的たる財産について、その一部については現物を返還し、他の部分については価額を弁済することができます。

3.遺留分減殺の対象となる遺贈が複数ある場合、遺留分権利者は任意の1つを選択して遺留分減殺請求を行使することはできません。なぜなら複数の遺贈がある場合、各遺贈は遺言者がその遺言に別段の意思表示をしたときを除き、その目的の価額の割合に応じて減殺をするからです。

4.相続人である子に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合、当該遺贈の目的の価額から受贈者の遺留分額を超える部分のみが減殺の対象となります。なぜなら受贈者も遺留分を有しているため遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受贈者の遺留分が侵害されるおそれがあり、このような結果をもたらすことは遺留分の限度で相続人を保護しようとする遺留分制度の趣旨に反するからです。
この場合、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち配偶者、子、直系尊属は遺留分を有し、直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は被相続人の財産から2分の1の割合に相当する額を受けます。

5.遺留分が、これを第三者に譲渡するなど権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情のある場合を除き、債権者による代位行使はできません。

6.遺留分減殺をする相手方は減殺されるべき行為について直接的に利益を受けた者(受遺者・受贈者)および包括承継人、悪意の特定承継人であり必ずしも裁判上の請求による必要はありません。ただし、包括遺贈に対する遺留分減殺は遺言執行者を相手して請求します。

7.遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅します。相続開始のときから10年を経過したときも消滅します。